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古文の書き方 助動詞I 推量・断定の助動詞 実践編

前回時を操る助動詞を変更し侍りしかば、今回も同じき様に助動詞の変更をせむ。今回の変更によりて、今までにまして古文のごとくなるべし、と思ひ侍り。変更量はいささかおおけれど、理屈はさしもかたからず。

前回はかくのごとくなりぬ。いまだいささかさうざうしきさまなり。

昨日学校へ行きときに、道端で光れるものを見つけ。不思議に思って近づいてみと、1円玉でし。誰かが落としたんだろうか、盗んでいってしまおうかなと思ひし、ですが、落としぬる人は今頃困れるだろう、悪いことはするまいと思えて、交番に届けることにし。学校に遅刻したら困るな、と思いながら急いで交番に行って、紺の服を着たおまわりさんに1円玉を渡すと、「ありがとう。分別ある大人でもここまではしないよ。友達にもこんなことがあったらこうしてもらってほしいな。拾い主がいれば1割もらえるんだけど、1円じゃ無理だな。おお、学校に遅刻する時間だ。遅刻すんなよ。じゃあ、これ持ってけ。」と言って、ミカンをもらひぬ。学校には遅刻しき、が、いいことをしてけり、という気持ちで食ひみかんはとてもおいしかりけり


不思議に思って近づいてみしと、1円玉でしき。

不思議に思って近づいてみしと、1円玉なりき。

まずは断定の助動詞を用ゐて、「です・ます」を「なり」にせむ。未だ前半部分はあやしきさまなれど、助詞を学びてよりのちに変更せむ。


誰かが落としたんだろうか、盗んでいってしまおうかなと思ひし、ですが、

誰かが落としけむ、盗んでいきてましと思ひし、ですが、

今回の難所なり。「落としたんだろうか」は、過去に対する推量なれば、過去推量の「けむ」とせむ。連用形接続なれば「落とし」「けむ」とすべし。
「盗んで行ってしまおうかな」の「おうかな」部分は、おぼろけの「意志」ととりて、「む」「べし」にせむもあしからねど、いささか迷へる様なれば、「ためらいの意志」ととりて、「まし」を使用せむ。さらに、「行ってしまう」といふ、完了のニュアンスさへあり。己の意志によるものなれば、「つ」のほうの完了を使用せむ。完了の助動詞はこちらを参照してむ。「まし」が未然形接続なれば、「てまし」、「つ」が連用形接続なれば、「いきてまし」とせむ。


落としぬる人は今頃困れるだろう、悪いことはするまいと思えて、交番に届けることにしき。

落としぬる人は困るらむ、悪いことはすまじと思えて、交番に届けることにしき。

前回の変更を無きこととすれど、もとの「今頃困っているだろう」は、まさに現在推量の意味なり。しからば、採用せむ。存続の助動詞を残し、「困りたるらむ」とせむもあしからねど、いささか冗長なる心地す。「らむ」は終止形接続なれば、さながら「困る」「らむ」とすべし。
「するまい」は、意志の否定なり。しからば、「じ」または「まじ」を使用せむ。意志の強さによりて分けむ。今回は、意志はいと強きものと思ひなして、「まじ」のほうを採用せむ。「まじ」も、「べし」のごとく終止形接続なれば、「す」「まじ」とせむ。「じ」を採用せば、未然形接続なれば「せ」「じ」とせむ。


いささか中略す。

分別ある大人でもここまではしないよ。

分別ある大人でもここまではせざらむ。

打消しの推量もやり方は二つありて、かやうのごとく打消の「ず」+推量の「む」といふことも可なり。「せじ」「するまじ」も同様に可なれど、「べからず」は、よしと覚えず。禁止のごとき心地すればなり。好みの問題にて、文法的僻事にはあらず。


中略す。

拾い主がいれば1割もらえるんだけど、1円じゃ無理だな。おお、学校に遅刻する時間だ。

拾い主がいれば1割もらふべきだけど、1円じゃ無理ならむ。おお、学校に遅刻する時間なめり

「拾い主がいれば一割もらえること」は規定なれば、「当然」ととりて、「べし」を使用せむ。
一円玉より一割受け取らむはあながちなることなれば、「当然」1割規定などなからむ、とも思へど、実際根拠はなからむ。しからば「無理である」ことを推量するものととりて、「む」とせむ。未然形接続なれば、「無理なら」「む」とせむ。
さて、巡査員は学校の開始時刻を知るや?ここは、状況によりて使用する助動詞は異なり侍り。
@巡査員が時間を知れる場合
この場合は断定の助動詞のみとせむ。さにあらぬ場合は、断定と、推量or推定のセットとなるべし。
A時間は知らで、根拠もなき場合
この場合は推量の助動詞「む」または「べし」とせむ。「なら」「む」または「なる」「べし」とせむ。
B時間は知らねど、手元に時計ある場合
この場合は視覚的推定の助動詞「めり」とせむ。「なる」「めり」なれど、音便の形をとりて「なめり」とせむ。
C時間はしらねど、チャイムのなる場合
この場合は聴覚的推定の助動詞「なり」とせむ。「なる」「なり」なれど、音便の形をとりて、「ななり」とせむ。意味的に最も洒落乙なれば、この文にてはこれを採用せむ。


残れる部分には、つゆ推量・断定系助動詞の入る余地なければ、これにて終了とせむ。様々なる可能性を挙げて論ずれば、いささか難きところもあらめど、いかに書くとも文法的なる僻事はさしも多からざらむ。結果、かくのごとくなりぬ。

昨日学校へ行きしときに、道端で光れるものを見つけき。不思議に思って近づいてみしと、1円玉なりき。誰かが落としけむ、盗んでいきてましと思ひし、ですが、落としぬる人は今頃困るらむ、悪いことはすまじと思えて、交番に届けることにしき。学校に遅刻したら困るな、と思いながら急いで交番に行って、紺の服を着たおまわりさんに1円玉を渡すと、「ありがとう。分別ある大人でもここまではせざらむ。友達にもこんなことがあったらこうしてもらってほしいな。拾い主がいれば1割もらふべきだけど、1円じゃ無理ならむ。おお、学校に遅刻する時間ななり。遅刻すんなよ。じゃあ、これ持ってけ。」と言って、ミカンをもらひぬ。学校には遅刻しき、が、いいことをしてけり、という気持ちで食ひしみかんはとてもおいしかりけり。

練習

()のうちを古文にすべし。動詞などの品詞はさながらおきてもよし。
@(ワイルドだろう?)
Aいや、そんなに(ワイルドじゃないでしょ)
B何だよ…そんなこと言うならもう(帰ってしまおうかな)。
Cあれ?…もう(帰っちゃったみたいですね)
Dなんでこんなことを(言ってしまったのだろう)
Eなんかすごく(怒ってるそうですよ)。
F(謝ったほうがいいですよ)。

解答はこちら

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