古文の書き方 助動詞A 完了的な助動詞 理論編
今回は、完了の助動詞を紹介し奉らむ。
つ・ぬ
接続は、連用形接続なり。前の用言は連用形にすべし。体言は、「つ」「ぬ」の前に直接はえ入れず。
(ex)書きつ。 学びつ。 しつ。 ありつ。 死につ。
(ex)書きぬ。 学びぬ。 しぬ。 ありぬ。 死にぬ。
さて、活用形を示し奉らむ。
助動詞 | 未然 | 連用 | 終止 | 連体 | 已然 | 命令 | 備考 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
つ | て | ○ | つ | つる | つれ | てよ | 下二段型 |
ぬ | な | に | ぬ | ぬる | ぬれ | ね | ナ変型 |
「つ」「ぬ」には、共通の意味が3種類あり。
@完了
こが基本なり。後述せむ。
A強意
下に推量形の助動詞が来る折に発動す。推量の意味を強め、「きっと〜」といふ意味となるなり。推量形の助動詞は、のちにまとめて紹介せむ。古文解釈にはいみじく重要なる意味なれど、擬古文を書かむ折には、欠くとも悪しきことなからむ。しかれども、推量形の字数合わせには効果あり。
(ex)風吹かむ(5文字)→風吹きなむ(6文字)→風吹きぬべし(7文字)
B並列
「持ちつ持たれつ」のごとく、動詞の並列の意味なり。接続助詞説もあり。使ふことをさをさなし。
き vs つ vs ぬ
完了と過去は、現代語にていづれも「〜た。」となれば、現代日本人にとりて、その識別は易からず。深刻なる問題はをさをさなけれど、使ひ分けなば、楽しく古文を書くことも可ならむ。
@き −過去ー
前回も書けど、過去は単純に、現在より前に起こりぬる事実を語るものなり。「昨日」「音楽を聞く」といふ事実を今語らむとすれば、「昨日音楽を聞きき」、となるなり。重要なることは、必ず現在とかかずらふ、すなはち、現在の視点が入る、といふことなり。「き」の場合、「(現在は聞かねど)昨日音楽を聞きき。」などのごとし。
Aつ −意識的完了ー
完了は、文字通り動作の完了を表す語なり。ビジュアル的には、音楽の再生時間が終了する時点こそ、「聞く」といふ動作の完了する点なれ。しからば、こは視点をいづれの時に起きても成立するものならむ。すなはち、完了は、過去にも、現在にも、未来にも発生するものなり。過去に再生時間が終了すれば過去完了、現在に再生時間が終了すれば現在完了、未来に再生時間が終了すれば未来完了なり。例を示し奉らむ。
(ex)音楽を聞きてしかば、パソコンを終了せし。(過去)
音楽を聞きつれば、パソコンを終了せよ。(現在)
音楽を聞きつれば、パソコンを終了せむ。(未来)
趣旨は心得たまふや?過去と完了は同じきものならず、といふことを言はまほしかりき。過去にて、完了となのめの過去の意味合いはをさをさ変はらぬ心地すれば、フィーリングと言葉の雰囲気にて好める方を選ばばよからむ、とも思ひ侍り。
(ex)「しし折に」…言葉がら悪し…。→「しつる折に」…よし。
Bぬ −無意識的完了ー
完了自体の意味は「ぬ」と同じかれど、「つ」と「ぬ」の完了はいささか違へるところあり。「つ」には、当事者の意識ありて、「ぬ」には当事者の意識なく、周囲の状況によりておのづからなれりけることを指せり。例を示し奉らむ。(ex)時間なければ、友人にドラマのネタバレを聞きつ。
(ex)口をしきことに、友人よりドラマのネタバレを聞きぬ。
前者は、ドラマを見る時間なけれど、今後ぞゆかしき、といふ意識ありて、友人に聞きける状況なり。対して、後者は、口惜しきことに心なき友人がドラマのネタバレを言ひて、意識せずとも聞きける、といふ状況なり。
かうやうの相違点はあれど、こも、フィーリングと雰囲気にて選ばばよからむ、と思ひ侍り。いにしへの御方はさしも考へやはする。
次回は、存続の助動詞「り」「たり」に挑戦せむ。