古文の書き方 助動詞@ 時をかける助動詞 理論編
今回より助動詞を紹介し奉らむ。助動詞の変更は、擬古文の要なり。助動詞をマスターしなば、7割以上の擬古文を書くことも可ならむ、と思ひ侍り。
助動詞の記憶すべきことは3点あり。
@接続
A活用
B意味
なり。我が侍りし高校にては、頭文字をとりて助動詞の「せかい」といへり。
今回は、時制を操る助動詞とて、過去の助動詞を紹介し奉らむ。完了の助動詞は、厳密に「時制」とはえ言で、未来の時制(推量・意志など)は助動詞のいみじく多ければ、次回にせむ。
き
接続は、連用形接続なり。前の用言は連用形にすべし。体言は、「き」の前に直接はえ入れず。
(ex)書きき。 学びき。 しき。 ありき。 死にき。
さて、活用形を示し奉らむ。活用形は特殊なれば、さながら記憶すべし。
助動詞 | 未然 | 連用 | 終止 | 連体 | 已然 | 命令 | 備考 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
き | せ | ○ | き | し | しか | ○ | 特殊型 |
「き」の意味は、過去一択なり。さしも難からざらむ。
(ex)聞きしよりもまして、言ふかひなくぞこぼれ破れたる。(土佐日記 帰京より)
けり
接続は、「き」のごとく、連用形接続なり。体言も「けり」の前に直接はえ入れず。
(ex)書きけり。 学びけり。 しけり。 ありけり。 死にけり。
さて、活用形を示し奉らむ。
助動詞 | 未然 | 連用 | 終止 | 連体 | 已然 | 命令 | 備考 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
けり | けら | ○ | けり | ける | ける | ○ | ラ行変格型 |
意味は、二つあり。
@過去
「き」のごとく、過去の意味なり。「き」との相違点は、後述せむ。
(ex)今は昔、竹取の翁といふものありけり。(竹取物語より)
A詠嘆
会話文中や、和歌にいづること多し。「○○かな」的なものなり。詠嘆の(終)助詞は、別の機会に紹介し奉らむ。詠嘆にかかずらふ変換は、つゆ1対1にあらず。詠嘆は古語の語彙多く、現代語の語彙もまた多ければなり。己の感情を強調せむ、と思すときにつかひたまはばよからむ、と思ひ侍り。
(ex)上臈はなほもやさしかりけり。(平家物語 敦盛最期より)
(ex)いやー、映画って本当にいいものですね。→あなや、映画はげによきものなりけり。
「き」「けり」の相違点
いづれも過去の助動詞なれど、大きなる相違点あり。
「『き』と『けり』ならば、けりを使はばより古文風とならむ!『き』の活用も難ければ記憶する必要つゆなからむ!」
……と、思ひたまふ御方も多からめど、さしもなし。
けりは、味覇のごとき助動詞なれど、多用せば素人感強し。
「き」と「けり」の過去は、いみじく難き相違点あり。古語辞典に曰はく、
「き」の過去は「過去の事実にて、今はさにあらぬもの」
「けり」の過去は「過去の事実にて、これより語らむとする事柄と結びつくもの」
とあり。こが、文脈により種々の解釈ありて、おもに3つの解釈に分かれぬめり。そのうちにて、最も心得やすきものを紹介し奉らむ。
「き」は、直接経験過去といふ二つ名あり。こは、己に直接起こりにしことをさながら書くものなり。現代にもさながら続きたる場合にも「き」を使ふことあれど、さなる折には後述する存続の助動詞を使用すべし。しからば、「直接己が身に起き、かつ今はさにあらぬこと」を書くべし。
対して、「けり」は、伝聞過去といふ二つ名あり。己に直接はおこらで、説話や、他人より聞きぬる話を書く場合に使ふものなり。しからば、過去の事実が現在にまで存続せるか否かは文脈によるものとなるなり。
しからば、現在の状態をおぼろげにせむ、明らかにするまじ、と思す折には「けり」を使ひたまはばよからむ。かくのごとく。
(ex)聞きしよりもまして、言ふかひなくぞこぼれ破れたる。(土佐日記 帰京より)
こは、紀貫之の日記中の記述なり。されば、(家の様子を)聞きける人は、紀貫之本人ならむ。しかれば、(紀貫之の)直接の経験を書くものなれば、こは「き」を使用すべし。
(ex)昔、男ありけり。
こは、名ある伊勢物語中の記述なり。物語中の記述なれば、書き手(語り手?)のその男を知るか否か、男の存在するか否か、などは明らかならず。書き手が直接男あるさまを経験せねば、(もしくはそをおぼろげにすれば)「けり」を使用すべし。
……あな、心得がたき説明なり!!とまれかうまれ、我が古文を書く折には、なのめの文にて現在と異なれる事実を書くならば「き」、フィクションを書くならば「けり」と思ひなし侍り。
「き」と「けり」を逆に使ひても、さしも大きなる影響はなけれど、「古文なればけりをつかへばよからむ。」といふ考えは捨つべし。
★その他の解釈
@「き」→過去の事実 「けり」→過去の事実に今気づく意
「けり」には、思い起こす系の過去あらし。古語辞典の例に曰はく、
(ex)かかる人も、世に出でおはするものなりけり。(源氏物語・桐壷より)
など。心得たまふや?この区別にては、いみじく難からむ。これより先は個人的なる解釈なれど、この場合「き」ならば、いと無味乾燥なるものとなるらむ。しからば、この場合過去+詠嘆的な語感あるやも、と思ひ侍り。はかばかしく申せば、「き」と「けり」の相違点はいみじくはかなきものなれば、注意すべきことにもあらざらむ、とも思ひ侍り。
A「き」→今はさにあらぬ過去の事実 「けり」→未だに続く過去の事実
「ありし日の○○」といふ言葉の示すがごとく、「き」には、現在にはさにあらぬ過去の事実を語るものなり。対して、「けり」は現在にまで続く過去の事実を表す語なり。と。「けり」はこの意を示すこともあればこそ、現在にまで続くか否かをおぼろげになす効果あるらむ。
次回は、完了の助動詞「つ」「ぬ」を紹介し奉らむ。例文の翻訳は、過去、完了、存続の助動詞を一通り紹介してのちにせむ。
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