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古文の書き方 助動詞D 推量

今回より、助動詞界のメインジャンル、推量を紹介し奉らむ。混乱は最も多きところなれど、概念的には時制より遥かにやすし。

べし

接続は、終止形なり。手前の動詞がラ行変格活用の場合、連体形接続なり。……要は、手前はシンプルなるウ段にすべし、といふことなり。(×するべし ○すべし、×ありべし ○あるべし)
活用形を示し奉らむ。
助動詞 未然 連用 終止 連体 已然 命令 備考
べし べから べかり    べかる    (べかれ) ク活用型
   べく べし べき べけれ   

形容詞系なれば、上の列はカリ活用なり。助動詞の手前にべしをつかふ折のみ採用すべし。 さて、推量の助動詞は、意味ぞ難し。全6種あり。
C当然(基本義)
当然の帰結、根拠の強き推量をあらはす語なり。英語にいふshould、現代語にいふ「当然−はず」。ほかの意味は、すべてこの当然の意より派生するものなり。このニュアンスを得ば、ほかの意味は心得ずとも、古文を「書く」ことには、つやつやさはりなからむ。
この状況ならば、必ずかくあり。といふ意味なり。
@推量
主語が3人称なる折に、動作をすること、状態にあることを推量する語なり。上に「つ」「ぬ」があらば、「つ」「ぬ」は推量を強める強意の助動詞となるなり。

推量にて重要なることは、「根拠なし」といふことなり。上の絵にてたとふれば、汗をかきぬることは事実なれど、長距離走れり、といふ根拠としては薄し。体質的な問題、汗にはあらで水浴び後、といふ可能性もあり。かくのごとく、根拠なき折には、推量の助動詞を採用すべし。
(※根拠ある折には推定の助動詞を採用すべし。そは別なる機会にせむ。)

A意志
主語が1人称なる折に、動作をすること、状態にすることを決意する語なり。己の次の行動への推量、といふことも可なり。…こは、心得がたければ無視せなむ…。
かくのごとく、己に対する命令と心得てもよからむ。上記の例のごとく、

E適当
主語が2人称なる折に、動作をすること、状態にすることを勧むる語なり。命令の弱体化版と心得てもよからむ。
D命令(・必要・義務)
現代語に最も近き意味なり。直観にて書きても、さしもさはりなからむ。適当の強化版と心得てもよからむ。

B可能
貴殿は知るや、もとより、漢文にては「可」で「べし」と読むことを。…常識にや?と、いふことにて、
意味のいと多きに、心づきなく覚えたまふ御方も多からめど、実は、「べし」を記憶すればさらに4つの助動詞は理詰めにてぞ意味の特定が可能なる。後が楽なれば、@推量A意志B可能C当然D命令E適当の番号順に頭文字をとりて、「すいかとめて」と記憶すべし。
「す……す…す…推量………い…い……意志…」と、はじめのうちはかくのごとき様なれど、やがてならひたまふべし。

む・むず  ー弱体化べしー

接続は未然形なり。「むず」は、「むとす」の変形版なれば、活用形よりほかに、「む」とたがふところなし。
活用形を示し奉らむ。
助動詞 未然 連用 終止 連体 已然 命令 備考
  
むず むず むずる むずれ サ行変格風

やすからむ。未然形、連用形、命令形はとらず。文末か、助詞の直前に来ること多し。

意味を紹介し奉らむ。
@推量
A意志
B勧誘・適当
勧誘は、命令の弱体化と心得るべし。さすれば、こも「べし」との重複なり。
--------ここまで「べし」と重複---------
C仮定・婉曲
連体形の折に発動する意なり。我は使用すること多し!区別とて、

といふものあり。これのみにては心得ざらめば、例を示し奉らむ。
(ex)
@「死なばや」といは女君が死ぬるためしなし。
A死ぬべく覚えども、出家せはさすがにつらからむ。
(@「死なばや」といふような女性が死ぬるためしなしA死ぬべくおぼえど、出家するとせば、さすがにつらからむ)
といふイメージなり。心得たまふや?

む vs べし

「む」と「べし」の相違点は、その意味の強さにあり。
「む」<<<<<<「べし」
といふ大小関係を記憶せなむ。

今回は以上なり。次回は打ち消しの助動詞を3種類紹介し奉らむ。
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